既存の屋根を撤去せず新しい屋根材を重ねる「カバー工法」。廃材が少なく工期が短いのが魅力ですが、すべての屋根に適用できるわけではありません。この記事では費用相場と工期、屋根材の選び方、下地や結露対策などの技術的な要点、ありがちな失敗事例と回避策までを、実務の観点で詳しく解説します。
費用相場と工期の目安
項目 | 目安 | 補足 |
---|---|---|
費用相場 | 60万〜150万円 | 屋根面積・勾配・役物点数で変動 |
平米単価 | 7,000〜12,000円/㎡ | 材質・下葺き材・副資材で上下 |
工期 | 5〜10日 | 天候順延あり。外壁塗装と同時で足場共有可 |
保証 | 5〜10年が目安 | 施工保証と製品保証は区別して確認 |
延床30坪(屋根60〜90㎡)の住宅なら概算60〜100万円がボリュームゾーン。
足場費は別計上が一般的(外壁塗装と同時なら共有で節約)。
カバー工法が向いている屋根/向かない屋根
向いているケース
- 既存がスレート・金属で、下地(野地板)が健全
- 雨漏りがあっても局所原因で、下地腐食が広がっていない
- 将来のメンテナンス性と工期短縮、廃材削減を重視
避けたほうがよいケース
- 瓦屋根など重量が大きい屋根(さらに重くなる)
- 下地の腐朽・たわみが広範囲/雨漏り多発で原因が複合
- 既存断熱・通気が不十分で結露リスクが高いのに対策計画がない
推奨屋根材と仕様の見方
カバーでは軽量・耐食性の高い金属屋根(ガルバリウム鋼板等)が主流。チェックするポイントは以下。
- 板厚・めっき種(例:SGL等)と塗膜等級
- 断熱一体型パネルか、遮熱鋼板+通気層の組み合わせか
- 役物(棟・谷・雨押え)の仕様と取り付け方法(ビス径・ピッチ)
- 下葺き材(改質アスファルト/高耐久系)の製品名と重ね幅
金属カバーの「形状」別・仕様比較
形状・タイプ | 向き | 弱点/注意 | 想定単価 |
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縦葺き(立平/ハゼ) | 雨流れ良好・雪地域/急勾配に強い | 通気層計画と棟換気が前提、ビスピッチ管理 | 7,000〜11,000円/㎡ |
横葺き(段葺/平葺) | 意匠性、既存スレート上のカバーで扱いやすい | 役物・継ぎ目の止水ディテールが品質差に直結 | 7,500〜12,000円/㎡ |
瓦棒風(金属瓦形状) | 瓦意匠を残しつつ軽量化、景観配慮 | 役物点数が増えがちで見積ブレやすい | 9,000〜14,000円/㎡ |
断熱一体パネル | 遮熱/断熱/遮音を一括強化、夏季の体感改善 | 厚みで取り合い干渉に注意(軒先・壁際) | 10,000〜15,000円/㎡ |
めっき種(例:SGL)や塗膜等級、板厚は必ず見積とカタログで整合確認。屋根形状が複雑なほど役物(棟/谷/雨押え)の数量・納まりがコストと耐久に与える影響が大きくなります。
重量・耐震/耐風・雪荷重の考え方
- 重量:スレート→金属カバーで屋根自重を軽くできるケースが多く、耐震に有利。瓦→金属は大幅軽量化。
- 耐風:ビス径・ピッチ・座金、ハゼ/キャップの仕様、端部の役物固定明細が飛散事故の分水嶺。
- 雪荷重:多雪地は野地/垂木の健全性を優先確認。雪止め計画と棟換気の取り合いを図面で整合。
構造に関わる数値は施工後に見えなくなる部分。カタログ値と現場仕様を写真+明細で残すと再販・保険対応でも有利です。
結露対策と通気設計(必須ポイント)
カバーは「新旧の屋根でサンドイッチ」になるため、小屋裏の湿気の逃げ道が重要です。通気層の確保、棟換気・軒先換気の連続性、断熱材の湿り(既存濡れ)確認を必ず行いましょう。高温多湿な夏季には遮熱鋼板+通気層構成で小屋裏温度の低下が期待できます。
現場確認チェック(通気・結露)
- 小屋裏断熱材の湿り・カビの有無(写真記録)
- 軒先→棟までの連続通気が図面・現場で一致
- 遮熱鋼板 or 断熱一体パネルの採用意図(温熱シミュレーションの有無)
- 既存屋根に残る湿気の排気ルートの確保
施工の流れ(標準)
- 現地調査(屋根上・小屋裏・外周)と写真記録
- 劣化部の下地補修(必要箇所のみ)
- 下葺き材(防水シート)施工と重ね幅確認
- 本体葺き(差し込み・はぜ・キャップ等、材質に準ず)
- 役物(棟・谷・雨押え・雪止め)取り付け
- 清掃・完了検査・施工写真提出・保証書発行
長期コスト比較:塗装 vs カバー
築25年スレートを想定。
塗装:70万円×2回(耐用10年)=140万円+都度足場。
カバー:100万円(耐用30年)で足場1回。
初期費用はカバーが高いものの、10〜20年の総コストは近似〜下回るケースが多く、雨仕舞いの再構築による安心感も得られます。
見積書チェック15項目(差し替え版)
- 調査写真(屋根上/小屋裏/外周)と原因説明の文書化
- 足場仕様(面積・単価・養生)/外壁同時時の共用可否
- 下葺き材の製品名・重ね幅・立上げ・貫通部処理
- 屋根材メーカー・型番・塗膜等級・板厚・めっき種(例:SGL)
- 役物(棟・谷・雨押え・雪止め)の数量・固定方法(ビス径/ピッチ/座金)
- 棟換気・軒先換気の有無/通気層厚み・連続性
- 防水テープ/ブチルなど副資材の製品名と使用箇所
- 取り合い(壁際/ベランダ/太陽光架台)の納まり詳細
- 材料費/施工費の区分(「一式」多用は回避)
- 追加費用の条件と上限(腐朽・野地増し張り等)
- 工程表と天候順延時の取り決め(施主負担有無)
- 保証:施工保証/製品保証の年数・範囲・免責(書面)
- 施工写真の納品範囲(Before/After/下葺き/役物/換気)
- 産廃処分の含有(既存撤去部位がある場合の石綿の扱い)
- 近隣配慮(作業時間/清掃/騒音/駐車)の取り決め
ありがちな失敗と回避策
- 下地腐食を見落として早期の再漏水→ 小屋裏点検と含水確認を実施
- 通気不良で結露・夏季高温→ 棟換気・通気層・遮熱のセット設計
- 極端に安い見積で追加請求→ 内訳比較と上限条項の明記
- 保証の口約束→ 施工保証・製品保証を別紙で書面化
相見積もりの取り方(同条件テンプレ)
各社に同一の質問票を渡すと比較が楽になります。項目例:
屋根面積想定㎡/勾配目安/現状屋根材/希望保証年数/希望工期/足場共用可否(外壁同時)/棟換気の採用有無。
回答はメール本文+PDF見積で、見積日・有効期限・担当者名・所在地を必須に。
FAQ
カバーと葺き替え、どちらが長持ち?
下地が健全ならカバーで30年級の耐久が期待できます。下地腐食が進んでいる場合は葺き替えのほうが根本解決になります。
重ねると地震に不利では?
カバーで使う金属屋根は軽量のため、瓦→金属カバーのようにむしろ軽くなるケースもあります。既存がスレート→金属でも重量増は小幅です。
雨音はうるさくならない?
断熱一体パネルや通気層を設けると遮音性が向上します。小屋裏の断熱改善と併用で体感が変わります。
ドローン点検だけで判断できる?
全景把握は可能ですが、下地の腐朽や雨仕舞い細部は確認困難。屋根上+小屋裏の実見が不可欠です。
助成金や保険は使える?
自治体の耐震・省エネ枠で対象になる場合があります。台風・雹などの自然災害起因なら火災保険が適用される可能性も。着工前に要確認です。